ゴールドの歴史的動き
ゴールド(金)が大きく動いています。7月27日には2011年9月の1924ドルの歴史的高値を更新、8月5日には2000ドルを突破、7日には2072ドルまで上昇という非常に短期間で非常に大きな急騰となりました。そしてこのほぼ一方通行の上昇の修正がようやく入って、8月12日には急落、8月14日時点で一時1873ドルまで、高値から200ドルもの急落となっています。その後9月初旬現在、1970ドルまで、早くも半分戻しており、円建てゴールドも1980年に記録されている6586円を超えて、40年ぶりの歴史的高値を更新して7020円をつけましたが、その後ドル建てゴールドの急落により、6400円台まで下げたあと、6700円まで戻しています。
いずれにしてもゴールドは今、歴史上最も高値圏で動いています。なぜここまでゴールドが上昇しているのか、背景を改めて考えてみましょう。最大の要因は、通貨の「ディベースメント」、つまり通貨の価値の毀損が進んでいることです。
世界の中央銀行は新型コロナウイルスにより混乱した金融市場と世界経済を安定化するために前例のない量の資金を市場に供給しています。そしてその結果としての金利が大きく低下しています。米国の10年の実質金利(名目金利から物価上昇率を引いたもの)が一時マイナス1パーセントまで低下しました。これはつまりお金の価値(金利)が、物の価値の上昇に追いつかず、通貨を持っていてもその価値が目減りしてしまうという状況であるということです。
当然、投資家としての自然な行動は、通貨からモノ、つまりコモディティーに資金を移動することとなります。ゴールドがコモディティーの代表として投資家の資金を集める状況にあり、価格が上昇するのは当然なのです。その対極としての通貨の代表である米ドルはその価値を示すドルインデックスが長期的下落傾向にあります。
ゴールドとドルインデックスの動き
このゴールドの上げは、これまでの一時的な上昇とはまるで性質が違うものと感じます。コロナが我々の社会生活を大きく変えています。これまでは信頼していたものの根本的価値を見直す動きが出ているのではないでしょうか。コロナ以来ゴールドを買っている投資家の大部分が欧米の投資家であるということが、それを端的に示しているのではないでしょうか。これまで全く考えなかったゴールドをポートフォリオに加える検討をするときが、まさに来ていると言えるでしょう。
池水 雄一氏
日本貴金属マーケット協会 代表理事・貴金属スペシャリスト
1962年生まれ兵庫県出身。1986年上智大学外国語学部英語学科卒業後、住友商事株式会社入社、その後1990年クレディ・スイス銀行、1992年から三井物産株式会社で貴金属チームリーダーを務める。2006年からスタンダードバンク東京支店副支店長、2009年に同東京支店で支店長に就任。2019年9月から日本貴金属マーケット協会(JBMA)代表理事に就任。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界各国のブリオン(貴金属)ディーラーでブルース(池水氏のディーラー名)の名を知らない人はいない。
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